ヨウ素は「足りない」より「偏りが大きい」栄養素
ヨウ素(ヨード)は甲状腺ホルモンの材料になるミネラルです。世界的には土壌にヨウ素が少ない 内陸国で不足が問題になり、食塩にヨウ素を添加している国も多くあります。
ところが日本は事情がまったく違います。昆布・わかめ・ひじき・のりを日常的に食べる食文化のおかげで、日本人は世界的に見てヨウ素が最も充足している集団のひとつ。 そのため日本では、不足よりも摂りすぎのほうが実際的な論点になります。
推奨量(成人)
130 μg/日
日本人の食事摂取基準2020年版
耐容上限量(成人)
3,000 μg/日
これを超え続けると甲状腺機能に影響しうる水準
データ比較:ヨウ素が多い食品(可食部100gあたり)
日本食品標準成分表2020年版でヨウ素の値が収載されている食品のうち、上位は次のとおりです。 単位はμg(マイクログラム)。桁の大きさに注意してください。
| 食品名(食品番号) | ヨウ素 (μg/100g) |
|---|---|
| 刻み昆布(09020) | 230,000 |
| ながこんぶ(素干し)(09015) | 210,000 |
| まこんぶ(素干し・乾)(09017) | 200,000 |
| ほしひじき(ステンレス釜・乾)(09050) | 45,000 |
| 昆布茶(16051) | 26,000 |
| こんぶ つくだ煮(09023) | 11,000 |
| カットわかめ(乾)(09044) | 10,000 |
| あおのり(素干し)(09002) | 2,700 |
| あまのり 焼きのり(09004) | 2,100 |
| わかめ(原藻・生)(09039) | 1,600 |
| めかぶわかめ(生)(09047) | 390 |
| まだら(生)(10205) | 350 |
出典:日本食品標準成分表2020年版(八訂)。ヨウ素は成分表2,478食品のうち1,157食品にしか値が収載されていません。
100gではなく「1回に食べる量」で見る
刻み昆布を100g食べる人はいません。ヨウ素の話がややこしくなるのは、 100gあたりの数値と実際に口に入る量が極端に離れているからです。現実的な量に換算してみます。
| 食べ方 | 目安量 | ヨウ素 (μg) | 推奨量 (130μg)比 |
|---|---|---|---|
| 焼きのり 1枚 | 約3g | 約63 | 約48% |
| 乾燥カットわかめ(味噌汁1杯分) | 約1g | 約100 | 約77% |
| めかぶ 1パック | 約40g | 約156 | 約120% |
| ほしひじきの煮物 1小鉢(乾5g相当) | 乾約5g | 約2,250 | 約17倍 |
| 刻み昆布 ひとつまみ | 約2g | 約4,600 | 約35倍 |
| 昆布だし(煮出し)の汁物 1杯 | 約150g | 約16,500 | 約127倍 |
成分表の値(焼きのり2,100μg/100g、カットわかめ 乾10,000μg/100g、めかぶわかめ 生390μg/100g、ほしひじき 乾45,000μg/100g、刻み昆布230,000μg/100g、昆布だし 煮出し11,000μg/100g)から算出した概算です。目安量は一般的な使用量であり、実際の量によって変動します。
ここで見えてくるのは、のり・わかめ・めかぶは推奨量前後に収まるのに対し、昆布とひじきは桁がひとつもふたつも変わるということです。 ヨウ素で気をつけるべき食品は、実質的にこの2つ(と昆布だし)に絞られます。
昆布だしは想像以上にヨウ素が多い
意外と見落とされるのがだしです。昆布のヨウ素は水に溶け出しやすく、 だしそのものに移ります。成分表の値は次のとおりです。
| 食品名(食品番号) | ヨウ素 (μg/100g) |
|---|---|
| 昆布だし 煮出し(17132) | 11,000 |
| 昆布だし 水出し(17020) | 5,300 |
| かつお・昆布だし(荒節・昆布だし)(17021) | 1,500 |
煮出しよりも水出し、昆布単独よりもかつおとの合わせだしのほうが少なくなります。 毎食を昆布だしの汁物にしている場合、それだけで耐容上限量を大きく超える計算になります。 もっとも、一時的に超えたからといってただちに問題が起きるわけではなく、問題になるのは高い水準が長期間続いたときです。
摂りすぎたときに何が起こるか
ヨウ素は不足しても過剰でも、同じように甲状腺機能の低下を招きうるという 珍しい性質を持っています。慢性的な過剰摂取では甲状腺腫や甲状腺機能低下症のリスクが指摘されており、 日本で報告される事例の多くは昆布の常用によるものです。
🤰 妊娠・授乳期はとくに注意
ヨウ素は胎盤や母乳を通じて移行します。妊婦・授乳婦は推奨量が引き上げられる一方で耐容上限量は下げられており、不足と過剰の幅が狭くなります。昆布の常用は避け、主治医の指示を優先してください。
🩺 甲状腺疾患の治療中
橋本病・バセドウ病などで治療を受けている場合、ヨウ素の摂取量が治療方針に直接関わります。海藻の摂り方は自己判断せず、必ず主治医に確認してください。
🍶 サプリメント・健康食品
「ヨード卵」「昆布エキス」「海藻パウダー」などは通常の食品より濃縮されていることがあります。複数を併用すると想定外の量になりやすい点に注意が必要です。
まとめ
- ✓ヨウ素が多い食品は海藻に極端に集中している。刻み昆布230,000μg・まこんぶ素干し200,000μg・ほしひじき45,000μg/100g
- ✓推奨量は1日130μg、耐容上限量は3,000μg。日本の食生活では不足はまれで、過剰のほうが実際的な論点
- ✓のり1枚 約63μg・乾燥わかめ1g 約100μg・めかぶ1パック 約156μg——この範囲なら推奨量前後に収まる
- ✓昆布とひじき、そして昆布だしは桁が違う。毎日の常用は避け、かつおとの合わせだしや水出しに切り替えるだけでも量は下がる
- ✓一時的に上限を超えても直ちに問題になるわけではない。問題は「高い水準が続くこと」
- ✓妊娠・授乳期、甲状腺疾患の治療中は自己判断せず主治医に相談する
海藻は食物繊維やマグネシウムの供給源でもあります。ヨウ素だけを理由に海藻を避けるのではなく、 「昆布とひじきは毎日にしない」という付き合い方が現実的です。
🌊 藻類カテゴリの食品一覧を見る →参考資料
・文部科学省「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」
・厚生労働省「日本人の食事摂取基準2020年版」
※ 本記事は一般的な栄養情報であり、疾患の診断・治療を目的としたものではありません。 甲状腺の病気で治療中の方、妊娠・授乳中の方は、必ず主治医の指示に従ってください。